松井正子さん(岩成台在住・1947年生まれ)

                                      「微力であっても本の持つ力を伝えなければ」
彼女にそのことを決意させたのは、斎藤孝著「読書力」(岩波新書)の本だった。中で著者は読書力の低下が日本の地盤沈下を招いていると言っていた。
 小学校の頃から本に親しみ、今も仕事や家事の合間に一般書を多い時には1週間に2冊のペースで読む。読書の楽しみを知り尽くす。そして読書から得られる大きな力を経験から知る。読書は自己形成に役立つとも確信する。
 読書力復活への手立てを思った。「伝える作業」は、“本”が何なのかを知る者の責務と考えるようになる。

 彼女に本の世界の扉を開けさせた一冊の本。それはバーネットの「秘密の花園」。「次はどうなる?次は?」。ワクワクドキドキの世界が12歳の心を捉えて放さなかった。本の中に、自分のおもしろい世界が広がっていることを知る。読書好きの友人とバスに乗って図書館通いをした。中学の時には藤村の「破戒」を小遣いで買った。難解な漢字や旧仮名遣い。充分に理解した訳ではないが、読んだ。読み終えたという達成感とともに、「島崎藤村ってどんな人?」と、次なる興味がわく。その興味が次への読書へと誘った。「若菜集」から萩原朔太郎・三好達治、そしてハイネ・リルケ・ゲーテへと広がる。彼女の読書は一冊の本では決して終わらない。納得できるまで読み続ける。それは今も続く。

 18歳。初ボーナスで買ったのはケストナーの全集。「飛ぶ教室」を主人公と同年代の子どもとして、共感の心で読んだ中学生時代からの夢。ようやく叶った。翌年のボーナスは「宮沢賢治全集」。重くて重くてどうしようもない13巻もの本を、名古屋の本屋さんから勝川の自宅まで持って帰ったことは、今も忘れられない。給料のほとんどが本代に消えていた頃のことだ。「本だけは欲しくなるとどうしようもなくて…」と笑う。

 結婚、そして家業を営みながらの子育て。多かれ少なかれ誰もが抱える子育ての悩みが彼女を襲う。
 「子育てって何だろう?」。どの本を読んでもなぜか自分の心を満たさない。ラジオの教育相談にも耳を傾けた。灰谷健次郎の本に出会う。そこには「子どもとは何か、人間とは何か」があった。「そうなんだ!そうだったんだ」。それまでの迷いや悩みが吹っ飛んだ。「読書」から本質を学び、そこから新しい考え方が生まれた。それが「人を作る」「人を育てる」ということだと実感。

  地域情報紙「タウンニュース」の書評欄を書き続けて20年。読書の楽しみを今も文章で伝え続ける。でも、もっと積極的に自分の思いを伝えたい。 
 昨年秋には、子育て支援センターや鳥居松商店街のふれあいイベントに呼ばれ、「子どもと絵本」のタイトルで講演活動をした。
 感受性が豊かな子ども時代に、本の世界の扉を開けるような本に出会って欲しい。ピッピッと稲妻が心の中を走るような本に出会うチャンスを子どもたちに与えて欲しい。読書の力を知って欲しいと母親たちに説いた。後日、参加者から「自信がもてました。ありがとうございました」の声が届けられた。自分の小さな行動で、何かを変えることができたような気がした。
伝え続けること、書き続けることの大切さを思う。



日々の生活の中で持っていた辛さが吹っ飛んだというエピソードを交えて
「ごろはちだいみょうじん」の絵本を読む松井さん。

2003年10月 勝川の「げんきっ子センター」 で