鳥居克次さん(白山町在住・1937年生まれ)
「時にはクールなマジシャンを演じたいと思うのだけど、だめだね。つい地がでちゃってさ」
なんてことを言うのは、案外この人のダンディズムかもしれない。
取材の最中、「タバコ、吸っていいかな?」とテーブルの上のタバコに手を伸ばす。私が何気なくそちらへ目を移した途端、手からタバコが消えてしまった。「????」
「え?どこへ行ったの?どこ、どこ」。あわてる私の顔を見て、ニンマリ。
マジックに出会ったのは25歳のとき。暇つぶしで入った本屋で手にした本が、ずばり「手品」というタイトルのハウツーもの。「おもしろいかもしれない」と買い込む。日常の中に非現実を作り出す楽しさを知る。マジックにのめり込んだきっかけは、それだけ。だが、小学生の頃、大道芸人の手品を「こんな不思議があっていいものか」という驚きと恐れの気持ちを抱きつつも最後まで見続けた思い出も持つ。
「好奇心の塊、そして凝り性ってことで40年かな?」
マジックは人をあざむきながら、その実、相手を不思議の世界へ誘い、楽しませる。相手がどれほど楽しんでくれたか、評価はその一点。テクニックは不可欠だが、それを感じさせるようではいけないというのが持論。上品な芸術作品を思わせるような手品にあこがれる。 「うまいな〜」ではなく「楽しかった!」と観客から言われたいと願う。
仕事の最中でも堅苦しい雰囲気になってしまったときは、タイミングを見計らって手近なものを使い相手の目を眩ます。「下手なジョークより、うんといい」。会社のなかでは「マジックの鳥居」で通った。仕事の潤滑油となった。
リタイア後、マジックの楽しみをもっと共有したいと「ユートピアマジッククラブ」を作った。同好の仲間たちと腕を磨きあい、要請があればどこへでもボランティアで出かける。福祉施設から更正施設、街のお祭り。個人では、請われて何回かハワイまで出かけたことも。
マジックに言葉は不要。世界中のどこにも壁は無い。年齢にも関係ない。子どもからお年寄りまで誰にも楽しんでもらえる。「そこがいい」と強調する。
これまでの人生の中で最も印象的、かつ嬉しかった観客は、少年院の子どもたち。演技の最中であろうが、「ここ一番」の時には、拍手拍手、そして歓声。終われば、周りに寄ってきて「おじさんの手品はすっげ〜!」と素直に喜んでくれた。マジックを通してコミュニケーションが取れたことが何よりも嬉しかった。
この人にとって、その場に居合わせた者同士が楽しめる最良のツールがマジック。
「見る人が楽しむには、どうあるべきか」と常に考える。ひとつの人生観でもある。これからも、人のためと自分のために、ゆっくりじっくり楽しめるマジックをしていきたいと願う。